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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)322号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人室岡徳之助上告理由第一点について。

論旨は、自作農創設特別措置法一五条一項によるいわゆる附帯買収については、同項一号と二号とで買収の要件を異にし、一号においては買収農地の利用上必要であることを要件とし、二号においては特に農地の利用上必要であることを要件としていない。原判決が両者の区別を看過し両者を混同し買収農地の附属地として利用して来たことを買収の要件とし、本件買収計画を違法としたことは同条の解釈を誤つた違法があるというのである。

しかしながら、同条が自作農となるべき者の申請に基づき、土地物件、権利等についていわゆる附帯買収をすることを規定しているのは、かかる買収が、同法一条に規定する耕作者の地位の安定、自作農の創設、土地の農業上の利用増進、農業生産力の発展等同法の目的達成上必要な場合があるからである。自作農となるべき者が買収農地の経営に必要でない土地等を買収することは、右一条の規定する同法の目的の範囲を逸脱するものであり、ことに同法一五条一項による買収が所有者の意思にかかわりなく行われることを考慮するときは、同項二号による買収においても、買収農地の経営上必要でない土地物件までも買収し得る趣旨とは到底解することができない。右一号と二号との間には買収農地との関連において買収の要件を異にするように見えるけれども一号の土地物件等については従前から賃借権等何等の権利の設定されていないものをも含むために「農地の利用上必要な」との要件を明文をもつて規定し、二号の土地物件については賃借権等の権利の設定のある場合は通常買収農地の利用上必要な場合が多いから特に一号のような明文をおかなかつたものと考えられる。要するに二号所定の宅地建物等について、自作農となるべき者が従前から賃借権等を有しておりそれを理由としてこれらのものの買収申請をした場合に、買収農地の経営上の必要の有無を考慮せず、即ちこれらのものが買収農地の経営上必要な関係がないにかかわらず二号に一号のような明文がないからといつてこれを買収すべきものとすることは、同条の正当な解釈とは言えない。それ故論旨は採用するを得ない。

論旨はまた、原判決は本件係争地が法一五条一項一号二号のいずれに属するかを明確にしないで判断を下した違法があるというのであるが、原判決が当事者間に争のない事実として認定するところによれば、本件買収計画は同法一五条一項二号によつて定められたものであり、その当否を争う本訴についての原判決が二号該当地としての買収計画を違法とした趣旨であることは明白であるから論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は同法一五条一項二号の宅地買収には原判決判示のように買収農地の附属地たることを要しないというのである。

しかし、自作農となるべき者の同法一五条による買収申請が常に農地の買収売渡に附随して行われるものであることは同条の法文上明白であつて、農地の売渡を受けない者は、たとえ宅地について賃借権等を持つていても、その宅地の買収申請は許されないところから見れば、同号により宅地を買収し得るのもその宅地が売渡農地の経営に必要な場合に限定すべきものと解するを相当とする。もとより宅地と農地との関係については同条一項一号所定の土地物件等と異り農地に対する従属性が必ずしも明白でないことは所論のとおりであつて、原判決が同項二号の宅地は、売渡農地の経営上、その附属地として利用せられて来たものであることを要するとしたことは、狭きに失する解釈と云わなければならないけれども、であるからといつて売渡農地の経営に必要でない宅地までも買収することができるものとは到底解することはできない。本件宅地について原審の認定するところによれば、本件宅地上には二棟の小屋があり、その小屋は周囲に壁もなく施錠設備もなく極めて簡単なもので買受地から相当離れた不便な処にあり、買収申請をした小西は買受地近くに住宅があり他にも十分な藁等の置場を持つており、従来も買受地の附属地として利用して来たものではないのである。かかる事実の下においては本件宅地は売渡農地の経営上必要な宅地と認めることは到底できないのであつて、結局原判決が本件買収計画を違法と判示したのは正当である論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は原判決が本件係争地を同法一五条一項一号に規定する農業用施設に該らないとし、本件買収計画を違法としたのであれば、原判決は同号の解釈を誤つているというのであるが、さきに説明したように原判決は本件宅地について右一号による買収の当否を判断しているのではないから論旨は理由がない。

同第四点について。

論旨は自作農となるべき者の附帯買収申請を相当とすべきかどうかは、自作農となるべき者の農業経営に必要であるかどうかを考慮すべきであつて、第三者の農業経営に必要であるかどうかを考慮すべきでないというのであるが、原判決も本件宅地が訴外木村繁富の農業経営上必要であることを述べているけれども、右は訴外小西の買受農地の附属地として利用して来たものでない事実に関する説明として述べている趣旨と解せられるのであつて、所論のように木村の買受農地に必要だからと言つてそのために本件買収計画を違法としたのではない。論旨はまた、本件宅地は買収申請をした小西の農業経営上必要であり、原審はこの点に関する審理を尽していないというのであるが前段説明のとおり一五条一項二号の買収をするには売渡農地の経営上必要であることを要するのであつて、原判決認定の事実によれば本件宅地は小西の買受農地の農業経営上必要でないことを十分に認めることができる。それ故原判決には所論のような違法はないから、論旨は理由がない。

よつて、上告を理由なしとし民訴四〇一条九五条八九条に従い裁判官全員一致の意見によつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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